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Páni kluci 口笛はあの青い空に

チェコスロバキア映画 (1976)

『トム・ソーヤの冒険』のチェコスロバキア版。ただし、題名が、『Páni kluci(意訳して「三少年」)』と変更になっているだけあって、原作をかなり改変している。映画の中で語られるエピソードは、半分は原作に似ているが、半分は全く違っている。登場人物の性格も、全員が、何となく、あるいは、かなり原作と違っている。しかし、考えて見れば、三銃士や、シャーロック・ホームズや、八十日間世界一周などの大人向きの映画は、原作と全く違った展開になっていることが多いので、トム・ソーヤだけ原作通りに作らなくてはならない理由はないわけで、この程度の変更なら、むしろ原作にかなり忠実と言った方がいいのかもしれない。それにしても、不思議なのは、その他の子供を主人公とした小説は、原作が有名であればあるほど、例えば、オリバー・ツイスト、王子と乞食、アルプスの少女ハイジのように、なぜか原作に忠実に作ることが原則になっている。それは、主たる観客である子供が失望しないようにするためなのかもしれない。

映画の主なエピソードを、原作と対比しつつ並べると、次のようになる。
① トマーシュ(トム)と蒸気機関車〔その1〕(なし)
② ジャムの盗み食い(1章)
③ フベルトゥ(ハック)と話していて遅刻(6章)→鞭打ち(6章)→ブランカ(ベッキー)の隣へ(6章の変形)
④ ブランカに石盤を見せ(6章)→罰として居残り(なし)→フベルトゥが梯子で救助(なし)
⑤ ヨシュカ(ジョー)の家〔その1〕(なし)
⑥ シュテパーン(シド)虐め(なし)
⑦ 盗賊3人〔その1〕(なし)
⑧ 夜帰りの罪の嘘鞭(なし)
⑨ 罰としてのペンキ塗り(2章)→ペンキ塗りを優秀成績カードで交換(2章と4章の合体・変形)
⑩ 足りないカードを、校長室に入って盗む(なし)
⑪ 盛大な表彰式(4章の変形・拡大)
⑫ トマーシュとヨシュカへの制裁(なし)→フベルトゥが梯子で救助(なし)
⑬ 盗賊3人〔その2〕(なし)
⑭ トマーシュとブランカの婚約のキス(7章)
⑮ 家出3人組が山城へ(13章の変形)
⑯ 盗賊3人〔その3〕(なし)
⑰ 盗賊3人に襲われた銀行の翌日の様子(なし)
⑱ 家出3人組の遺体捜索(14章の変形)
⑲ 家出3人組が盗賊3人の隠した札束を発見(33章の大幅変形)
⑳ 家出3人組の葬儀(17章の変形)→3人組現われて札束を見せる(34章の大幅変形)
㉑ 盗賊3人〔その4〕(なし)
㉒ トマーシュと蒸気機関車〔その2〕(なし)

(なし)の割合が非常に高い。逆に、完全に無視された重要なエピソードは、インジャン・ジョーによる墓地での殺人目撃(9章)と、間違って犯人として逮捕されたマフ・ポッターを救うためにトムが裁判で証言する場面(23章)。もう一つは、トムとベッキーが鍾乳洞の中で生死の境を彷徨う場面(31章)。『トム・ソーヤの冒険』のどの映画化でも必ず山場となる重要なエピソードが2つとも欠落している。これほど重要ではないが、トムとベッキーの関係は、原作では、もっとドラマチックで、特に、ベッキーの代わりにトムが鞭打ちの罰を受けるシーン(20章)がないのは残念だ。やはり、映画の題名が、『トム・ソーヤの冒険』でなく、『Páni kluci』となっているだけあって、『トム・ソーヤの冒険』に触発された、別の国、別の時代を舞台にした別の映画だと思った方がいいのかもしれない。訳にあたっては、英語字幕とチェコ語字幕を併用した。

トマーシュ(Tomáš)、原作のトム役はMichal Dymek。1962.9.4生まれ。映画の公開が1976年3月1日で、映画の中に紅葉の場面はないので、撮影が1975年の春~夏だとすれば、撮影時13歳。これが映画初出演にして主役。その後、映画を中心に1980年前半まで活躍。フベルトゥ(Hubert)、原作のハック役はPetr Voříšek。1962.6.16生まれ。撮影時の年齢はMichal Dymekと同じかもしれないが、こちらは声変わりしている。彼も映画初出演にして準主役。その後、映画を中心に1970年末まで活躍。フベルトゥの役は、原作のハックよりかなり小さくなっている。ヨシュカ(Jožka)、原作のジョー役はPetr Starý。1963.6.19生まれ。撮影時12歳。彼だけ1歳若く、それに一番可愛い。彼は、これが2作目の出演で、この映画の翌年には映画界を去っている。そして、2017.11.8には54歳の若さで他界。ヨシュカの役は、原作のジョーよりかなり大きく、ハックを上回っている。

あらすじ

映画は、蒸気機関車が単線の線路を走ってくる場面から始まる。マーク・トゥエインの『トム・ソーヤーの冒険』(1886)では、ミシシッピ川の外輪蒸気船がトムの住んでいた小さな町の唯一の公共交通手段だったが、このチェコスロバキア版の『トム・ソーヤー』では、唯一の公共交通機関は蒸気機関車だった。映画の時代設定は、①1910年前後の車輪を持つ自動車が登場することと、オーストリア=ハンガリー帝国(~1918年)の制服を着た警官が登場することから、1910年前後とみて間違いはない。原作より4半世紀後の時代設定だ。そういう意味で、冒頭に蒸気機関車が登場することには大きな意味がある。人間が走るよりゆっくりしたスピードで走る機関車の機関手が、窓から、線路沿いの野道を歩いている女性に、「今日はアポレナさん、乗っていきませんか?」と叫ぶ。このアポレナが、原作のポリー伯母さんに当る。因みに、チェコ語の人名は、呼格という独自の文法で、使い方によって変化する。例えば、この場合も、「アポレナさん」は、「paní Apokeno」と、末尾の「a」が「o」に変化する。従って、役名は、変化する前の、単独で使われる際の標記で統一する。アポレナは、いつも持ち歩いている、大きな懐中時計を見て、「時刻表より早いじゃない! なぜ、時刻表通りに走らないの! ヴァーツラフ(Václav)!」と駅の方を見て叫ぶ。ヴァーツラフというのは、アポレナの夫。レヴィーン(Levín)という小さな駅の駅長兼駅員。原作のポリー伯母さんは寡婦なので、大きな違いだ。機関手は、敬礼するヴァーツラフに向かって、「元気かい、駅長さん!」と声を掛けるが、乗降客がいないのでそのまま素通りする(1枚目の写真)。そこに、ようやくアポレナの声が届く。「ヴァーツラフ!」。「何だい、アポレンコ〔アポレナの愛称〕」。「パトチカ〔機関手〕に、ドクターのために停車するよう言った? 今日は、月初めの水曜日で、ドクターがお姉さんを訪ねる日よ」。ヴァーツラフは、「しまった! がみがみ女、まだ死んでなかったのか?」と呟くと、奥さんに向かって、「忘れてた」と答える。アポレナは、そこから家の方を向いて、「トマーシュ!」〔実際には、語尾に「i」が付いて、トマーシ〕と大声で呼ぶ。2階の窓から、トマーシュが顔を出し、「うん、伯母さん」と叫ぶと、そのまま窓を出て梯子で1階の屋根まで下り、そこから地面に飛び降りる。そして、汽車に向かって走り始める。伯母は、「『今日は』を忘れちゃだめよ」と注意する。汽車はカーブを曲がり、トマーシュは直線を突っ走り、汽車の前方に飛び出して両手を振って 「パトチカさん、止まって!」と叫ぶ(2枚目の写真)。「どうした?」。「止まって」。「何だ?」。「水曜日だよ」。「分かった」〔会話ができるほど ゆっくり走っている〕。汽車がスピードを落とすと、左側からドクターとお手伝いさんが歩いて野原を突っ切ってくるのが見える。パトチカ:「ドクター。お早うさん」。「お早う」。汽車は相当行き過ぎて停まったので、ちょうど、最後の車両のステップから医者が上がる。反対側からトマーシュが顔を見せ、「今日は」と声をかける(3枚目の写真)。お手伝いさんは、トマーシュにお駄賃として べっ甲飴を渡す〔毎回、駅長も機関手も忘れるので、トマーシュが走って汽車を停めているらしい〕【すべて原作にはない】
  
  
  

冒頭のシーンの後、オープニング・クレジットが表示される。最初に表示されるのが、トマーシュ(Tomáš)、フベルトゥ(Hubert)、ヨシュカ(Jožka)役の3人の子役【それぞれ、原作の、トム、ハック、ジョーに該当する。原作では、ジョーは1つのエピソードだけで登場するが、この映画では、存在感はハック以上】。名前の羅列が終わると、アポレナ伯母の家の朝食の場面に変わり、窓から伯母が、「トマーシュ!」と呼ぶ。テーブルでパンを食べているのは、伯母の息子のシュテパーン(Štěpán)【原作のシッド】。伯母が何度読んでも返事がない。「どこに行ったのかしら? シュテパーン、知ってる?」。彼は、最初、「知らないよ、ママ」と答えるが、すぐに気付き、立ち上がると、小声で、「ママ、パントリー(食料貯蔵室)にいるよ。ジャムを盗み食いしてる」と 告げ口する。そして、カメラが切り替わり、パントリーの中でトマーシュがジャムの入った壺からジャムをすくって食べている(1枚目の写真、矢印は壺)。伯母:「そこにいたのね」。「違うよ。空気を換えようと窓を開けてるんだ。パントリーは、換気しないと」。そう言いながら窓を開けると、トマーシュは、開けた窓から外に逃げる(2枚目の写真)。伯母は、壁に掛けてあったハエ叩きをつかむと、逃げ出したトムを、ハエ叩きを振り回しながら追いかける(3枚目の写真、矢印はハエ叩き)【トムがジャムを盗み食いの場面は、原作の冒頭、第1章にある。そこでポリー伯母さんが手にするのは、鞭。ハエ叩きより怖い。ただし、シドの告げ口はない】。後ろの小さな駅舎には、「Levín」の文字が見える。このレヴィーンは、首都プラハの北約80キロにある村で、そこを通る鉄道は映画公開の僅か2年後、1978年5月27日に廃止された。4枚目の写真は、線路を撤去中の古写真。レヴィーンでのロケは、この駅舎のみ。
  
  
  
  

アポレナが、トマーシュを捕まえられずに家に戻って来ると、意地悪シュテパーンは、トマーシュの鞄を母に見せ、「ママ、彼 戻ってくるよ。だって、先生は、持ち物が全部揃ってるか、ちゃんと調べるんだから」と言う(1枚目の写真、矢印)。母は鞄を取り上げ、「そうね。じゃあ、お行き」。息子が出かけると、アポレナは、窓に向かって、「ヴァーツラフ、そっちはいいから、来て頂戴」と呼ぶ。そして、鞄を 振り子時計の下に置く。そこに、呼ばれた夫が入って来る。アポレナは、夫に、ちゃんと「停車」の標識を出し、新聞を受け取るのを忘れないよう注意する。「もちろんだとも」。そう答えながら、アポレナの夫(トマーシュの伯父)は、トマーシュの鞄が置いてあるのに気付く。そして、ドアの横に掛けてあったマントを羽織る。「マント。どうして?」。「雨が降るかも」。「どこから? 雲なんかないわよ」。アポレナが空を見ている間に、ヴァーツラフは、トマーシュの鞄をマントの中に隠す(2枚目の写真、矢印)。「そのうち、湧いてくるさ」。ヴァーツラフは、鞄が見えないよう、マントの前をしっかり押さえると、家を出て行く。そして、駅の近くの小屋の後ろに隠れていたトマーシュに鞄を渡す(3枚目の写真、矢印)。「わしは、何も知らんからな」。「すごいや。ありがとう」【すべて原作にはない】
  
  
  

だいぶ遅刻しているはずなのに、トマーシュはぶらぶらと歩く。すると、棒の上に帽子を乗せて麦畑の中を歩いているフベルトゥに気付き、思わず笑顔になる(1枚目の写真)。そのあと、手製のロッキングチェアに素足のまま横になったフベルトゥから、「学校に行くんか? 泳ぎには行かないんだろ?」と訊かれ(2枚目の写真)、トマーシュは、「そうだ」と悲しそうに答える。フベルトゥから、「学校に行かなくちゃいけないからか? 女の子1人のためなのか?」。そう言われると、トマーシュは、「人のことに口出しするな。僕が、口出ししたか?」と反撥。それでもフベルトゥは止めない。「ブランカ(Blanka)〔原作のベッキー〕って女の子じゃなかったっけ」。「もう一度言ったら…」。フベルトゥは、「女の子〔buchta、ブクタ〕」と何度も繰り返す。「黙らないと、片手で押さえて、もう一方の手で殴ってやる」。「やれよ」。2人は取っ組み合いを始め、最初はフベルトゥが優勢だったが、トマーシュが上に跨って勝つ(3枚目の写真)【原作にはないシーンだが、そもそも、原作ではハックの方が強い】
  
  
  

学校では、とっくに授業は始まっている。何かの試験中らしく、1人の生徒が後ろや右の生徒の答案を見ていると、教師が、立たせ、注意し、教室の前方右側の壁に向かって立たせる。そこには、既に3人の男子生徒が立たされている。そこに、こっそりと忍び込んだのがトマーシュ。すぐに教師に、「トマーシュ君。やっと起きたのかね? それとも、どこかで寄り道してたのかね?」と、わざと間延びした声で訊く(1枚目の写真)。「フベルトゥとケンカしてました」。「何をしてたって?」。「フベルトゥとケンカです。こけにされたから」。「フベルトゥ君がこけにしたから、トマーシュ君がケンカしたんだね。町一番の不良と喧嘩しただけではなく、そのお陰で学校に遅刻した上に、大胆にも、言い訳に嘘まで付くのかね? 一体どうしたらいいんだろう?」。「鞭で叩いて下さい」。「それはいい考えだ」。そして、トマーシュは、鞭打ち台にうつ伏せになり、細い棒で何度もお尻を叩かれる。そして、痛そうに起き上がると(2枚目の写真、矢印は台)、席に戻りかけるが、教師は、「女子の席に座りなさい」と言い、さっそくシュテパーンが、嬉しさ一杯の顔で、「女の子の席はあっちだよ」と口を出す(3枚目の写真、矢印はシュテパーン)【このシーンは、原作の第6章に準じている。トムが鞭打ちの刑を承知で、ハックと話していた〔原作では喧嘩などはしない〕と教師に話すのは、罰として女子の席に行かされ、あこがれのベッキーの隣に座るため】
  
  
  

トマーシュが女生徒の席に向かうと、アンドゥラ〔原作のエミー〕が、「ここに座って、トマーシュ」と、席を右に移ってトマーシュが座れるようにする(1枚目の写真、写真の左端はブランカ)。ところが、トマーシュはそれを無視し、一番後ろの席を回ると、ブランカの横に座り、アンドゥラは おかんむり。ブランカは、「すごく痛かった?」と訊く。「ううん、座れるよ」(2枚目の写真)。教師は、「とてもよく書けたノートだ」と言って、1冊のノートを生徒達に見せる。それは、シュテパーンのノートなので、彼は立ち上がる。「このノートの持ち主には、青カードをあげよう」。教師は、そう言うと、1枚の青カードをシュテパーンに渡し、彼は、それをトマーシュに自慢するように見せる(3枚目の写真、矢印は青カード)。教師は、生徒達に向かって、「こうしたカードを一番たくさん持ってると、何がもらえるかな?」と訊く。1人の女生徒が手を上げ、「本がもらえます」と答える。その通り。本だ。視学官からだぞ。来週。誰がもらえるかな? 絶対もらえないのが誰かは分かっとる」。生徒達は、それがトマーシュのことだと笑う。原作でもトムはベッキーの隣に座るが、この時点では、トムと親しく話し合うような間柄ではない。また、映画では、青〔modrý〕とピンク〔růžovej〕の2種類のカードしかない【原作の第4章では、青カード10枚で赤カード1枚、赤カード10枚で黄カード1枚で、聖書をもらうには黄カード10枚が必要と書かれている】
  
  
  

トマーシュは、石盤に何かを書き始める。ブランカは、「何て書いたの?」と、興味たっぷりに訊くが、トマーシュは、「君には関係ない」と見せるのを拒んで小競り合いになるが、結局、ブランカが強引に頼んで見せることに。そこには、「Tu pitom. Kniho toho blb. Inspektota dostanu. Já!!! Tomáš」と書いてある(1枚目の写真)。この中には多くのスペル ミスがあり、正しくは、恐らく、「Ta pitomá. Kniha toho blb. Inspektor dostanu. !!! Tomáš」(あのバカげたやつ。本はクソだ。視学官からもらってやる。僕が!!! トマーシュ)であろう【原作の第6章では、最初は、家の絵を描き、次に人間を描く。その後で、隠すように書いた字は、「I love you」。全く違っている。その理由は、原作では初めてトムがベッキーに愛を打ち明けるのがこのシーンだから〔映画では、前節で書いたように、2人はかなり親しいので、わざわざこの場で書く必要がない〕。石盤を見たブランカは、「嘘でしょ」と言うが、「いいや。誓おうか? もらったら、君にあげる」と言う(2枚目の写真)。その時、トマーシュにこっそり近づいた教師が、彼の左耳をつかむと(3枚目の写真)、「まだ懲りずに、授業を邪魔しおって」と言う。トマーシュは、すぐに鞭打ち台まで走って行き、お尻を叩くよう要求するが、教師は、「体罰は1回で十分だ。もっと面白いことを考えようじゃないか。みんなが放課後、泳ぎに行ってる間、君には居残って勉強してもらうことにしよう」【原作には、居残りなどない】
  
  
  

トマーシュは、資料室のような場所で、教師と一対一で勉強させられている(1枚目の写真)。「解けたか?」。「いいえ、解けるとは思いません」。「できるとも。時間ならたっぷりある。夕方まで、ここで缶詰だからな」。そう言うと、教師は、トマーシュが部屋から逃げ出せないよう、ドアの鍵を抜き取り、「逃げられんぞ」 とトマーシュにワザとらしく鍵を見せる(2枚目の写真、矢印)。そして、鍵をズボンのポケットに入れると、安心して居眠りを始める。その時、フベルトゥの口笛が聞こえ、梯子が窓に掛けられる。それを見たトムは、鞄にノートを入れると、教師の机にインク壺からインクを丸く垂れ流す(3枚目の写真、矢印)。そして、梯子を伝って校舎の2階から庭に降りる(4枚目の写真)〔原作にはない面白い設定だが、3つ問題がある。①そもそも、なぜフベルトゥは助けに来たのか? ②学校に来たことのないフベルトゥに、トマーシュが居残りさせられている部屋がなぜ分かったのか? ③教師が眠ったと なぜ確信できたのか?/この後、トマーシュとフベルトゥは、ヨシュカに会いに行く。①と②はフベルトゥがヨシュカから聞いたからかもしれない。しかし、③は説明がつかない〕【すべて原作にはない】
  
  
  
  

下に降りたトマーシュは、「梯子、どこで見つけたんだ?」と訊く(1枚目の写真)。「茂みの中に置いてあった。もう1つあったぞ」。「ロパタ〔教師〕が起きる前に、急いで片付けよう」。居眠りから目を覚ました教師の眼鏡は、右側のレンズにインクがべったり付いている。頭がはっきりしてくると、机の上のインクに気付く。そして、トマーシュはどこにもいない。「このわんぱく小僧が」と言って、ドアを開けようとするが、開かないので、ドンドンと叩いて、「すぐに開けろ!」と怒鳴る。最後には、ドアに体当たりする。すると、ドアの向こうから、「何事だ?」という校長の声がする。「私です、校長。悪童に閉じ込められました」。ドアが開き、用務員と校長が入って来る。しかし、鍵穴に外から鍵が差し込んであった訳ではないので、ドアは用務員が持ってきた鍵で開けたことが判明する。すると、ボケでいた教師は、ズボンのポケットから鍵を取り出す(2枚目の写真)。鍵は2つしか存在しないらしいので、ドアに鍵を掛けたのは、教師以外にあり得ないことになる。教師は、「ワルガキが、ここに いたんです」と、トマーシュの座っていたテーブルを指すが、彼は全部持ち去ったので、「いた」という証拠はどこにもない。校長は窓から覗くが、地面まではかなりあるので、飛び降ることなど不可能(3枚目の写真)。そこで、校長は、「君は、最近、少し疲れ気味じゃないのかね? あるいは、働きすぎとか?」と言い〔眼鏡の片方や鼻にインクが付いているのも、その見解に影響した〕、教師を残して用務員と一緒に部屋から出て行く。1人になった教師は、「あいつをバラバラにしてやる!」と怒り心頭【すべて原作にはない】
  
  
  

2人は、庭を囲む塀と校舎の境にある雨樋を伝って路地に降りる(1枚目の写真)。向こうから、「ナイフ、ハサミ、研ぐよ!」と大きな声で呼びかけながら、男がやってくる。この場所を含めたほとんどの場面のロケ地はリトミエルジツェ(Litoměřicích)という、プラハの北北西約60キロにある町。路地の先に僅かに見えるのは、聖ヴァーツラフ教会(Chrám svatého Václava)〔トマーシュの伯父のヴァーツラフと同じ(ただし、女性形)なのは偶然か?〕。2人が降り立ったのは、スヴァトイルシスカー(Svatojiřská)という路地。2枚目の写真は、グーグル・ストリートビュー。校舎らしく見えたのは、この町のローマ・カトリック教区の建物。建物の南には、50m四方の内庭がある。トマーシュは若い研ぎ師〔実は3人の銀行強盗の1人〕に向かって、「ここには、誰も住んでないよ」と からかい、「このクソ野郎!」と怒鳴り返される。男は、さっき2人が降りて来た場所まで来ると、2人がいなくなったのを見届け、雨樋を登って塀の向こう側に入る。そして、隠しておいたはずの梯子が1つなくなっているのに気付き、別の木に立てかけてあるのを見つけると、それを元の場所に返そうとして2本の木に阻まれる(3枚目の写真)〔あまり頭が良くない〕。なお、梯子は21段あるので、トマーシュのいたのが、かなり高い場所だったことが分かる。別の塀の反対側に見えているのは、市民銀行(Občanská záložna)の建物。梯子は、そこに押し入るための道具だ【すべて原作にはない】
  
  
  

そのあと2人が行ったのは、ヨシュカの家。ヨシュカの母は、おっかないことで有名なので、2人は家の角の向こうに誰もいないことを確かめてから、井戸のポンプにいるヨシュカを口笛で呼ぶ(1枚目の写真)。それに気付いたヨシュカは、小声で 「注意。窓」と言い(2枚目の写真)、2人は急いで家の角を回って窓から離れる。すぐに、窓から母が顔を出し、「口笛を吹いたのは誰? また、あのロクデナシの2人じゃないだろうね?」と、息子に訊く。「僕が、吹いたんだ。仕事中、口笛も吹けないの?」と言いながら、ポンプで汲み上げた水をジョウロで庭に撒く。何もかも気に入らない母親は、「そんなに雑に撒いたらダメじゃないの! もっとちゃんと撒きなさい! それじゃ、野菜畑の中で飛び跳ねてるだけじゃないの!」と叱る(3枚目の写真、矢印)。フベルトゥは、「オフクロが、自分の子にあんな言い方するかよ?」と呆れるが、トマーシュは 「伯母さんが、僕を あんな風に扱ってくれたら嬉しいんだけど」と、奇妙な返事をする【すべて原作にはない】
  
  
  

すると、2人には、シュトルードル(Štrúdl)という、少しボーっとした少年が通りを歩いて来るのが見える。そこで、からかう意味もあって、トマーシュはシュトルードルに、「あのポンプ見えるだろ?」と、親しげに声を掛ける(1枚目の写真)。「庭にいって、ヨシュカの代わりにポンプを押してくれないか。100数えるまで押したら、ビー玉あげる」。そう言うと、ビー玉を見せる。これで、ヨシュカが仕事をせずに済んだので、3人は外に遊びに行く。一方、庭では、シュトルードルが、「78、79、80、81、82」と数えている。すると、それを見つけたヨシュカの母が、「ポンプで、何やってるんだい?」と、相手がヨシュカだと思って文句を言う。しかし、ポンプを押しているのが別の子だと分かると、「そこで、何やってるんだい?」と訊く。シュトルードルが、「今日は。僕100回ポンプを押すんだ。86まで行ったよ」と答える。「ヨシュカはどこ?!」。そう言うと、母親は、大声で 「ヨシュカ!」と呼ぶ。何かヤバいと思ったシュトルードルがポンプから離れると、母親が、布団叩きを手に、「この悪ガキが!」と叫んで飛び出して来る。シュトルードルはすぐに裏口から逃げ出すが、彼を追って行った母は、買い物帰りのトマーシュの伯母とぶつかりそうになる(2枚目の写真、矢印はシュトルードル)。ヨシュカの母親は、謝るどころか、「あたしのヨシュカは、間違いなく、あんたんトコのロクデナシと一緒にいるわ」と、イチャモンをつける。伯母は、「ヴァグレロヴァさん、トマーシュは活発な子ですけど、もう家に帰ってますわ」と、懐中時計を取り出して反論する。「私の2人の子は、言いつけを守りますから」(3枚目の写真、矢印はシュトルードル)【すべて原作にはない】
  
  
  

ところが、その頃、3人は、川沿いの茂みの中でシュテパーンに残虐なことをしていた。体を大木にロープで縛り付け、頭から古バケツを被せている。足の下には、何と焚火。しかも、トマーシュが息を吹きかけて 火を燃え立たせる(1枚目に写真、矢印はバケツ)。シュテパーンは、「熱いよ! 二度と告げ口しないから」と許しを請うが、「もう遅い、裏切り者」と拒否。「ウンチ出ちゃう」。「死ぬ時には、気品を持て」。そこに、叫び声を聞いて大人が2名駆け付け、3人は近くの川へと逃走。縄を解かれ、バケツを外されたシュテパーンは、「誰にやられた?」と訊かれると、「やったのは…」と言いかけ、川岸の茂みの中のトマーシュが “言ったらどうなるか” を態度で示したので(2枚目の写真)、「知りません」と答える(3枚目の写真)【偏執狂的な担任といい、ヨシュカ虐めの母親といい、今回の3人によるシュテパーン虐待といい、原作とはまるで違う展開だ。この時代、チェコスロバキアは共産主義体制下にあり、それがこのような “原作の暴力的改悪” を、ごく自然にもたらしたのかもしれない】
  
  
  

研ぎ師が向かった先は、1軒の商店の前。「ナイフ、ハサミ、研ぐよ!」の声を聞いて主人が出て来る。「2人のガキが庭に入り込んで、俺たちの梯子を使ったので、戻しときました」。「クソガキどもが。早く実行せんと。採石場で、夜。パイダックに言っとけ」(1枚目の写真、矢印は映画に出て来る3台の自動車の1台目の普及型)。その夜、川原に集まった3人の前で、トマーシュは左腕を2人の前に水平に差し出し、「決して裏切らないこと。僕らはいつも一緒だ」と言い、他の2人も腕を差し出し、3人の手が触れ合う。そして、トマーシュ、ヨシュカ、フベルトゥの順に、「僕らは誓う」と口にする(2枚目の写真)。そして、ナイフで指の先を少し切り、血の盟約を誓う。そして、悪い成績の答案を焚火に入れて燃やす。その様子を、かなり高い場所から、もう1組の3人が見下ろしている。さっき名前が出てきたパイダックが、フクロウの声を真似し、もう真夜中だと気付いたトマーシュとヨシュカは、急いで家に向かう。一方、山の斜面では、出どころ不明の木の箱を、研ぎ師がロープで2人の仲間のいる所に降ろす。店の主人がナイフで箱をこじ開けて中を見て、「これがダイナマイトか? ネバネバの石鹸じゃないか! 使えん!」(3枚目の写真、矢印)と愕然。「数年で、こんな風になるなんて」〔ニトログリセリンベースのダイナマイトの最大貯蔵寿命は、良好な保管条件下で製造日から1年〕。店の主人:「数日、延期しないといかんな」【すべて原作にはない】
  
  
  

最初に3人が行ったのは、ヨシュカの家。ヨシュカは、2階の窓の横で、トマーシュに、「部屋に入るよ。母ちゃんは朝には、そんなに怒ってないさ」と言って、窓から入る。すると、待ち構えていた母がランプを点け、「何時だと思ってるんだい!」と言ってヨシュカを叩く(1枚目の写真、矢印はヨシュカ)。「お前のせいで、こんな夜遅くまで付き合わされて!」。2人は早々に退散する。次は、トマーシュ。家に近づくと、「伯母さんの部屋にまだ明かりが点いてるから、部屋には入らず、控室で寝るよ」と言い、フベルトゥに、「君はどうする?」と訊く。「俺なら、優しい農夫と一緒さ」。トマーシュが 裏口のドアを開けると、そこには、伯母が待ち構えていて、「このロクデナシ! ごろつき! どこにいたんだい!」と言うと(2枚目の写真)、走って逃げるトマーシュを追いかけて捕まえる。最後のフベルトゥ。納屋の藁の上で寝ようとすると、農夫が2人で駆け寄って来て、「毎晩、ここで寝てる奴はお前か! 二度と来るな! 出て行け!」と、追い払われる(3枚目の写真、右の矢印はフベルトゥ、左の矢印は農夫)【すべて原作にはない】
  
  
  

トマーシュを捕まえた伯母は、夫を呼びつける。そして、「今、トマーシュを罰しないのなら、あなたが、この子に対して重大な教育上の過ちを犯していると判断せざるを得ないわね」と、強い言葉で厳罰を要求し、叩くためのベルトを渡す。伯父は、伯母に 「罰するから」と言い、寝るように勧めるが、伯母は それでは満足せず、「見たいわ」と 後を付けて行く(1枚目も写真)。伯父は、裏口からトマーシュを入れると、ドアを閉める。すぐにトマーシュの悲鳴が聞こえてくる。それを聞いたシュテパーンは、日中、焼かれそうになったことの仕返しとばかり、大喜び(2枚目の写真)。窓から覗こうとした伯母は、伯父がカーテンを閉めたので、影しか見えない。しかし、「伯父さん、止めて!」というトマーシュの悲鳴と、ベルトを振るう伯父の影と(3枚目の写真、矢印は上げた手)、何度も叩きつける音を聞いた伯母は、「もう十分よ、ヴァーツラフ」とガラスを叩く。しかし、伯父は止めない。悲鳴は続く。カメラは室内に変わり、伯父は、ベッドを叩きながら、「何かをする時には、私は完璧にするんだ」と言う(4枚目の写真、矢印は振り上げたベルト)。ベルトがベッドを叩く度に、イスに座ったトマーシュが嘘の悲鳴を上げる【すべて原作にはない】
  
  
  
  

映画は、しばらく原作から離れていたが、ここでようやく原作に戻る。原作の第2章。有名なペンキ塗りの場面だ。伯母は、「これまで、あんたには ほとんど仕事をさせなかった。土曜には遊びに行かせたのに、私の好意を踏みにじった。だから、これからは違う。報いを受けるのね」と言う〔前夜、ベルトで叩かせたのに、これでは二重の罰となっておかしい〕。トマーシュは、バケツに入ったペンキを、刷毛で不満そうに かきまわしている(1枚目の写真)。「柵にペンキを塗ったら、泳ぎに行っていいわ」。トマーシュが、柵まで行くと、そこにやって来たのが、昨日のシュトルードル。トマーシュは、下心があるので、楽しそうに塗っている。シュトルードルは、「ペンキ、塗らされてるんだ」と、話しかけるが、トマーシュは夢中になってやっているフリをして返事をしない。「聞こえた? 働かされてるんだろ?」(2枚目の写真、矢印は刷毛)。「やあ、君だったのか」。「泳ぎに行くけど、一緒に来たいだろ? でも、できないよね。仕事だから」。「何? これが仕事だって?」。「仕事じゃないのかい?」。「君が、この前ペンキ塗ったのは いつだ?」。「僕? 一度もないよ」。「そりゃそうだな。誰も、君に任そうなんて思わないから」。その時、伯母の声がする。「ヴァーツラフ、トマーシュを手伝っちゃダメよ。柵は、あの子に任せたんだから」。トマーシュは、早速、この言葉も利用する。「聞いたろ。伯父さんにすら任せられないんだ」。それを聞くと、シュトルードルは、「トマーシュ、ちょっとやらせてくれない?」と頼む。「ダメだね。伯母さんは、柵を大事にしてるから」。「トマーシュ…」。「泳ぎに行けよ」。「注意深くやるから。やらせてくれよ。やらしてくれたら、僕のシュトルードル〔彼の名前と同じだが、こちらは、リンゴをパイ生地で巻いて焼いたお菓子〕、一口食べさせてあげるから」。トマーシュは無視。「じゃあ、全部あげる。それに、紐の付いたネズミの死骸も」。「生きたネズミでもダメだね。だけど、昨日君がロパタ〔教師〕からもらったピンクのカードとなら、いいぞ。1枚持ってても仕方ないだろ。どうせ本はもらえないんだから」。それを聞いたシュトルードルは、「ペンキ全部塗らないで、カード取ってくる」と言うと(3枚目の写真)、家に走って帰る【原作では、カードと交換などしない。交換したものは、子供らしいガラクタ。カードとの交換は第3章の日曜学校の授業中】
  
  
  

次は、レールバイクに乗った少年を含めて6人が一緒にやって来る(1枚目の写真)。そして、シュトルードルと同じように、最初は、冷やかすつもりで柵まで行くが(2枚目の写真)、すぐにトマーシュの策略に騙され、「ロパタのカードと交換だ」と言わしめる(3枚目の写真)。「君は2枚持ってたろ?」。A:「俺か? 青カード3枚あるぞ」。B:「僕も3枚ある。それに、ピンクが1枚。ピンク、欲しいだろ?」。A:「俺が先だ。青3枚で、板何枚だ?」。「3枚だ」。B:「僕のピンクは?」。「5枚だ」。C:「僕も ピンクが1枚ある」。「なら、君も5枚だ」【すべて原作にはない】
  
  
  

すると、ブランカが、父・将軍の運転で、後部座席に日傘をさした母を乗せてやってくるのが見える(1枚目の写真)。かなりの高級車だ。それを見たトマーシュは、レールバイクに乗ると、車の方に走らせていき、ブランカの姿が見えると、帽子を取って振り回し、「お早う!」と叫ぶ(2枚目の写真)。ブランカは、助手席から立ち上がり、両手を上げて 「トマーシュ!」と叫ぶが(3枚目の写真)、あまりに危険なので、びっくりした母親に引っ張られ、無理矢理座らされる。トマーシュの自転車が通過した直後に、自動車が線路を横断する【すべて原作にはない】
  
  
  

ペンキが塗り終わると〔トマーシュが塗った訳ではないので、「ペンキを」ではなく「ペンキが」〕、トマーシュは 「伯母さん!」と声をかける。「遊びに行ってもいい?」。「何? 遊ぶ? どれだけ塗ったの?」。「全部だよ、伯母さん」。「見に行くわよ」。伯母と一緒に、お邪魔虫のシュテパーンも付いて来る。トマーシュは塗り終わった柵を見せるが、ここが、この映画の最大の失敗。原作では 「whitewash」 という単語が使われている。塗料の詳しい内容は分からないが、白く塗っていることは確か。だから、塗る前と後で、はっきりと差が出る。ところが、この映画で塗ったのは、濃い灰色のペンキ。だから、新しく塗った場所と、塗らなくて良かった場所の区別が全くつかないし、塗った場所も、「新しく塗った」というイメージが全く湧かない。なぜ白にしなかったのだろう? トマーシュは、「完璧にするため、二度塗りしたよ」と自慢する【原作では、長さ27mの柵を三度塗り】。伯母は、「ほらね? やる気になれば やれるじゃない。もっとも、なかなか やろうとしないけど」と、半分褒める。ところが、シュテパーンは、「手を見て」と告げ口する。「何?」。「手にペンキがついてない」。そう言うと、トムがしたであろうことを、母の耳元で囁く(2枚目の写真)。察しのいいトマーシュは、2人の眼が逸れている間に、足元にあったバケツに両手を突っ込んでペンキまみれにし、手を後ろに回して隠す(3枚目の写真、矢印)。伯母はトマーシュを呼び寄せ、いきなり、「手を見せて」と要求する。ペンキまみれの両手を突き付けられたシュテパーンはびっくりし、トマーシュを疑ったことを恥じた伯母は、シュテパーンの頭を叩き、「恥じなさい。嘘の話をでっち上げるなんて」と叱る【原作にはない】
  
  
  

少し前のシーンの続き。店の主人が、ウーイェズト(Újezd)までダイナマイトを買いに出かける。誰も客が来ないので、駅舎の中で眠っていたヴァーツラフを、切符の窓口の閉まったガラスを何度も叩いて呼び出す。店の主人が行き先を告げると、ヴァーツラフは、「誰も汽車に乗りませんし、駅にも来ません。そもそも、汽車はこの駅にほとんど停まりません」と、変な応対。「で、何がお望みで? 切符でしたね」。「そうだ!」。汽車が通過しようとやって来ると、ヴァーツラフは機関手から郵便袋を投げて寄こされるが、停まってはくれない。店の主人は、走りながらか鞄の1つを乗務員が待機していた貨物車に入れ、それを見た機関手がようやく停車すると、店の主人は、ダイナマイトを入れるスーツケースを持って客車に乗り込む。一方、解放されたトマーシュは、フベルトゥと一緒にヨシュカの家に行く。2人が、壁を登って庭に侵入すると、ヨシュカが果樹にジョウロで水を撒いている。2人は、いつも通り、家の角に座り込み、フベルトゥが指笛を使ってヨシュカを呼ぼうとすると、トマーシュが慌てて止める(1枚目の写真)。それを見たヨシュカは、口に指を当てて音を立てるなと警告し、小声で 「母ちゃん。すぐ横」と教える(2枚目の写真)。さっそくトマーシュが角から覗くと、確かに、ヨシュカの母親が、幼児を横に立たせ、イスに座って編み物をしている。ヨシュカは、2人のすぐ横を通り、母親の方に近づきながら、ジョウロを強く振りながら水を撒く(3枚目の写真、矢印)。そのうち、ジョウロを母親に向けて振ってしまい、「何するのよ! どうするか、おぼえてらっしゃい!」と叱られるが、母親は、水のかかった幼児が濡れたのを心配して、罰は後にまわしたので、ヨシュカを含めた3人は、すぐさま家を逃げ出す【すべて原作にはない】
  
  
  

3人が街路を走っていると、白いデージーの花束を持ったブランカとすれ違う(1枚目の写真)。トマーシュは、「走って、どこ行くの?」と訊く。「どこにも」。一方、見つめ合う2人に取り残されたヨシュカは、近くの塀にチョークで大きなハートを描き、そこに矢を突き刺す。矢の先端はデージーの花。そして、最後に、「T+B(トマーシュ+ブランカ)」と書き添える。それが終わると、ヨシュカは、すぐ横でおどけていたフベルトゥと、T+Bになった気で抱き合う(2枚目の写真、矢印はデージーとT+B)。ブランカが走り去って行くと、トマーシュの胸には1輪のデージーの花が(3枚目の写真、矢印)【原作では、第3章に、引っ越して来たベッキーを初めてトムが見て恋に落ち、三色スミレの花を投げてもらう場面がある。その場面に対する一種のオマージュか?】
  
  
  

3人は、丘の上にある、材木で組まれた使われなくなった(?)何かの施設に登る。トマーシュは、「マサ〔クラス1の優等生〕に勝つには、あと4枚の青カードと、数枚のピンク・カードがないと」と、フベルトゥに不満を訴える(1枚目の写真)。しかし、フベルトゥにとって、そんなことなどどうでもいいので、「奴ら、まだ そんなアホ・カード配ってんのか?」と笑う。ヨシュカは、「ロパタが止めるハズないよ。それに、トマーシュ、ほんとに本が取れると思ってるのかい?」と訊く。「思わないけど、取らないと」。それを聞いたフベルトゥは、「俺なら、何枚かカードを取ってやれるぞ」と言い出す(2枚目の写真)。「どうやって? 学校に行ったこともないのに」。「欲しいのか、欲しくないのか?」。次のシーンで、3人は、以前の “校舎の裏庭” に塀を乗り越えて侵入。フベルトゥは、トマーシュを助けた時に使った梯子が隠してあった場所へ2人を連れて行く。そして3人で、校長室の窓まで運ぶ(3枚目の写真)【すべて原作にはない】
  
  
  

フベルトゥが、開けっ放しの窓に梯子を立て掛けると、トマーシュが、「ここ、校長の部屋だぞ」と心配そうに言う。ヨシュカも、「そうだよね」と及び腰〔1回目の時もそうだったが、学校に一度も行ったことのないフベルトゥが、なぜ校長室の窓を知っているのだろう? しかも、今回は、トマーシュが驚いているので、教えてもらった訳ではない〕。フベルトゥは、「カード持ってる奴が他にいるか?」と言い、臆することなく、梯子を登り始める。しかし、2/3まで登った所で振り向くと、2人は後に続くどころか、姿もない。「あいつら、どこに行った?」(1枚目の写真)。2人は、木の影に隠れてフベルトゥを見ている(2枚目の写真)。校長室で捕まったら、ただでは済まないからだ。フベルトゥが窓から覗くと、中には誰もいない。中に侵入したフベルトゥが最初に探したのは机の引き出し。そこにはなかった。フベルトゥは、次に、机の背後の本棚最下部にある引き出しを開けようとするが、鍵が掛かっていて開かない。ガタガタ揺すっているうちに、本棚の天辺に置いてあった胸像が落下。その時には、梯子の天辺まで登ってきていた2人は、それを見て息を飲む。しかし、次のシーンでは、フベルトゥが左手で胸像をキャッチし、右手にカードの入った箱を持って 「こっちに来て、取れよ」と言う(3枚目の写真、矢印はカードの入った箱)。トマーシュは、「僕が要るのは4枚か5枚だ。でも、確実にするため8-10枚もらっとこう」と言い、ヨシュカは、「僕も もらうよ。1枚もないんだ」と言う。トマーシュ:「君に、あとピンク5枚、僕にも、あと5枚」【原作では、前に書いたように、第4章の日曜学校で、トムは、ペンキ塗りで “貢いでもらった” 多くの物とカードを交換する。こんな風に “明らかに” 盗んだりしない。子供向き映画には相応しくない脚色だと思うが…】
  
  
  

町はお祭り騒ぎ。公園の中心にある木造の奏楽堂の周りに多くの人々が集まっている。奏楽堂の上には、中世の格好をした生徒達が揃って立ち、歓迎の歌を唱和。そして、ロパタの采配の下、生徒達による無言の中世寸劇が始まる。しかし、最高枚数のカードの所有者に、本を贈呈するために招かれた視学官は、何のためにこのような劇が行われているのか分からず、不機嫌な顔で見ている。舞台上の生徒全員が戦闘で死亡して横になった状態で、ロパタは拍手する。それを見た校長も拍手するが、視学官に 「一体何なのだ?」と 不機嫌に訊かれ、用務員をロパタに遣わし、「視学官が、一体何だと、言われているぞ」と、説明するよう促す。ロパタは、「歴史の授業の一環として、地元のポトシュテイン(Pokštejn)城の征服〔ともに架空〕を、パントマイムで演じさせました。伝承によれば、城には、不幸なフィロメナ夫人と火の犬に守られた宝物が隠されています。ここでは、火の犬は除外しましたが」と説明する。今度は、視学官も 「素晴らしい」と拍手する。そして、いよいよ本の授与式。校長は、授与する中世のチェコ〔ボヘミア王国?〕の伝承にまつわる本を、掲げて見せる(1枚目の写真)。そして、ロパタがカードをたくさん持っていそうな生徒をチェックする。最初の男子生徒は青6枚、ピンク3枚。そして、最優秀の男子生徒マサは青7枚、ピンク4枚。ロパタは、他にいるはずがないと思って辺りを見回す。すると、トマーシュが、「僕、持ってます! 12枚の青カード、それに10枚のピンク!」と言って立ち上がる(2枚目の写真、矢印はカード)。そんなことは、絶対あり得ないので、ロパタと校長は、提出されたカードを念入りに調べる(3枚目の写真)。ところが、今度は、ヨシュカが、「僕も いっぱい持ってます!」と言って立ち上がる(4枚目の写真)。2人のことを知らない視学官は、優秀な生徒が2人も現れたことに感激し、良い教育を行ったロパタと校長に、「おめでとう」と言って握手する。2人のカードの枚数は同じなので、本は2冊必要だが1冊しかない。視学官は、「いったいどうすれば」と困惑する【原作の第4章で、奏楽堂でなく日曜学校で、視学官でなく判事から、賞品として本でなく聖書を渡されるのはトム1人。ただ、その際、判事から、十二使徒の最初の2人の名を言うように言われ、当然、トムは知らないので、ダビデとゴリアテと答える逸話があるが、そうした楽しい場面はカットされている】
  
  
  
  

その直後のシーン。トマーシュとヨシュカは、先ほどのよそ行きの服装のまま〔ということは、祝賀会が終わった直後〕、耳を引っ張られたまま2階に連れて行かれる(1枚目の写真、矢印)。校長は、「本の代わりに、25回の鞭打ちだ」と言い、ロパタは、「どうやってカードを手に入れたか白状させてやる」と脅し、2人を倉庫に閉じ込める。校長は、2人の両親をすぐ呼ぶよう、用務員に命じる。教師3人がいなくなると、彫像の後ろに隠れていたフベルトゥが姿を現し、倉庫のドアを開けようとするが、鍵が掛かってて開かない。倉庫では、怖い母親を持つヨシュカが泣き始める。トマーシュは、「なぜ泣くんだ。誰も見てないぞ」と訊く。すると、窓の外から、フベルトゥの口笛が聞こえる(2枚目の写真)。そして、窓に梯子の先端が掛かる。トマーシュは、さっそく窓まで行くと、「助かった! 泣くのは、僕らじゃない、あいつらだ!」と、喜びを指の仕草で現わす(3枚目の写真、矢印は梯子)【すべて原作にはない】
  
  
  

次のシーンでは、ヨシュカはもう着替えていて、今度はトマーシュが自分の部屋に外から忍び込んで着替えをし、荷物を持って降りてくる。そして、フベルトゥに地面に落ちていたハンマーを拾わせる。「ハンマーなんかどうする?」。「ポトシュテインで宝物を見つけるんだろ? 宝が壁に隠されてるんなら、叩いてみるのが一番だ」。ヨシュカは、途中でワインの壺を調達し、トマーシュは納屋に侵入して卵と燻製肉を調達する(1・2枚目の写真、矢印)。一方、ヴァーツラフの駅では、初めて汽車がプラットホームに停まっている。そして、ウーイェズトから戻って来た 店の主人が列車から降りてくる。数日前に乗った時と違い、スーツケースは如何にも重そうだ。ヴァーツラフは、荷物を家までカートに乗せて行くよう勧めるが、「ワニス〔塗料〕を買ってきただけだから」と断る。店の主人は、そのままレールの上を歩いて行く。すると、反対側から2人の老人が歩いてくる。その頃には、店の主人は、スーツケースの重さにかなり疲れていて、レールの上にスーツケースと鞄を置いて、押して行こうとするが、安定性が悪く倒れそうになる。その時、研ぎ師が藪の中をこっちに歩いてくるのを見つけた主人は、「おい、ペットセ」と呼び付ける。すぐ横で、2人の老人が聞いているので、主人は、「もし他に用がないなら、スーツケースを運ぶのを手伝ってもらえんか?」と、目下の仲間だと悟られないように、頼む。ペットセは、拾った木の棒を持って線路上に上がり、棒をスーツケースの取っ手の中に入れ、2人で持ち上げる。しかし、ペットセが棒を背負ったため高さのバランスが崩れ、スーツケースはレール上に落下。爆発を恐れて2人は、線路の両脇に走って逃げる。その異常な行動を2人の老人が変な顔で見ている。何事も起きなかったので、主人とペットセは戻って来るが、2人の老人に見られていので、「何でもない」と邪険に言うと、今度は、棒を水平に持って運んで行く(3枚目の写真、矢印)【すべて原作にはない】
  
  
  

ブランカが 森の中の渓流に架かった木の橋を渡っていると、川辺にいるトマーシュを見つけ、笑顔で寄って行く。トマーシュは、「君に、本をあげられなくてごめん」と謝ると、ブランカは、「みんなが、あなたを探してるの知ってる?」と訊く。「見つかるもんか。ここから1時間でポトシュテイン、そこで宝探し。お金持ちになるんだ。君と婚約したいな」。「今、時間がないの」。「大丈夫。僕にキスして。それで婚約完了だ」(1枚目の写真)。「誰か、見てるかも」。「誰も、いないよ」。「もし、いたら?」。「いないったら」。2人は、「しようよ」。「でも…」をくり返す。それを、茂みの中から見ていたヨシュカとフベルトゥは、それぞれ、トマーシュとブランカの役になり、真似をして楽しむ。そして、トマーシュとブランカは最後にキスにゴールイン(2枚目の写真)。その直後、トマーシュは、「アンドゥラの時より、うんと素敵だ」と大失言。ブランカは、「何なの? あなた、アンドゥラと婚約してたの?」。「でも、ちっとも楽しくなかった。ホントだよ。あいつのことなんか、どうだっていいんだ」。「嘘よ。まだ好きなんでしょ」(3枚目の写真)。「違う。誓うよ」。その時、ブランカの母親が呼ぶ声が聞こえ、ブランカは、すぐに立ち去る。そして、橋の上からトマーシュに向かってアッカンベー【この場面は、原作の第7章に ほぼ該当する。ただし、ヨシュカとフベルトゥは いない】
  
  
  

3人が、さっきとは別の橋を渡っていると、トマーシュが岸につながれたボートに気付く(1枚目の写真)。ボートは半分水没している。岸まで降りて行ったトマーシュとヨシュカは上着を脱ぎ、帽子と一緒にボートに投げ入れる〔ただ、1つ変なのは、2人は着ていた白シャツ(下着ではない)までは入れない。なのに、後から見つかるのはヨシュカの白シャツ〕。トマーシュ:「これで 僕らは間違いなくお墓入りだ。ボートとぼろ切れが見つかれば、溺れたって思うだろ」。フベルトゥが、「アーメン」と言い、ロープを外してボートを押し出す。ボートは、2人の “遺品” を乗せて川を下って行く(2枚目の写真、矢印が “遺品”)。次のシーンでは、3人はもうポトシュテイン城の廃墟まで来ている(3枚目の写真)〔トマーシュとヨシュカは、ちゃんと白シャツを着ている〕。因みに、撮影に使われたのは、リーズンブルク(Rýzmburk)城。当時の東ドイツの国境から10キロほどの山中にある13世紀の終わり頃の城。城主は、トマーシュの伯父と同じ名前のヴァーツラフ1世。ネット上で探した写真を4枚目に示す。かなり崩壊が進み、原形をとどめていない【すべて原作にはない。ただ、”宝探し” という発想は、第26章の幽霊屋敷でのインジャン・ジョーによる金貨の箱の発見以降の ”トムとハックの熱意” を、別の形で表現したものとみなすことができる】
  
  
  
  

3人は、“チャンバラごっこ” をして夕方になるまで遊ぶ。夜になり、焚き火の前で、酔っ払ったトマーシュが、軽くなったワインの壺を振りながら、「大人って、ワインを一口飲んだだけで、なんで、何でもできちゃうんだろう」と、他の2人の酔っ払い〔既に眠っている〕に話しかける(1枚目の写真)。一方、銀行強盗を終えた3人組〔店の主人と、もう一人と、一番下っ端のペットセ〕がポトシュテイン城に向かって登って来る。先頭を行く “もう1人” が、「待て、何か光ったぞ」と、立ち止まる。最後に歩いていた “店の主人” が、横まで来て、「どこで見た?」と訊く(2枚目の写真)。「上で」。「こんな天気で、どこのどいつが ここまで来ると思う? いいから進め」。「だけど、見たんだ」。「登るんだ」。「あんたが何と言おうが、俺は見たんだ」。「光るキノコだろ!」。ペットセは、札束の隠し場所として考えていた場所に2人を連れて行く。「昔よくここで遊んだもんでさ。ボス。ここなら安全ですぜ」。ここで、“もう1人” が 「煙臭い」と言い出し、ボスから、「お前、探知犬か?」と言われる。「急げ、早く家に戻りたい」。ペットセが隠し終わると、ボスが 「今週、ここには誰も来るな」と言うが、その途端、すぐ近くに雷が落ちる。「奴らは、あちこち探り回るだろうが、できるかぎり無視しろ。1週間後にここで会おう。分け前は3等分だ」(3枚目の写真)。その時、雨が降り出し、3人は急いで山から下りて行く【すべて原作にはない】
  
  
  

翌朝、3人が押し入った銀行では、警察の捜査が行われている。長い梯子が2脚、窓に掛けられている。ガラス窓が吹き飛んでいるのは、中でダイトマイトを爆発させたからであろう(1枚目の写真)。都会から来た警部(?)が、壁に開いた穴の直径を測り、地元の署長に、「君は、3人の子供がやったと言うが、そんな考えは捨てろ。やったのは3人かもしれんが、大人の泥棒だ」と 間違いを正す(2枚目の写真、右が署長〔オーストリア=ハンガリー帝国の警察官の制服〕)。一方、場面は変わり、トマーシュの伯母がシュテパーンを連れて 田舎っぽい町の道を歩いていると、ヨシュカの母親が、「みんな溺れちゃった! 私のヨシュカが溺れだ!」と叫びながら後ろから走り寄ってくる。「アポレナさん、みんな死んじゃった! ちっちゃな天使! 転覆したボートが見つかったの!」と言って、伯母にすがりつくようにして泣く(3枚目の写真)【3人が乗った筏の発見は原作の第14章だが、状況は全く違う】
  
  
  

渓流に設けられた堰の上流では、ロパタと用務員が1艘(そう)のボートに 危なっかし気に立って乗り、長い木の棒で何か河底にないかを探っている。もう艘のボートには、3人の警官が乗って捜索している(1枚目の写真)。最初に、用務員が帽子を見つける。見つけた帽子は、待機した生徒の手から手に渡り、アポレナの手に。それを見た伯母は、「可哀想な みなし子」と泣く〔なぜ、「甥」と言わないのだろう?〕。その帽子を見たシュテパーンは、「それトマーシュのじゃない、僕のだ」と言い出す〔真偽は不明〕。ヴァーツラフは、「死人に不満をいうんじゃない」と頭を一発叩く(2枚目の写真)。用務員は、次に白いシャツを見つける(3枚目の写真、矢印)〔先に指摘した “あり得ない物”〕。そのシャツも、手から手に渡り、最後に、ヴァーツラフがヨシュカの母親に渡す。今までヨシュカを虐めに虐めてきた母親は、「ヨシュカちゃん。可哀想な坊や。シャツも着ないで河底に横たわっているのね」と、一転涙にくれる【原作では、大河での溺死なので死体探しはしない】
  
  
  

その頃、トマーシュとヨシュカは、城の壁を危なかっしげに取り付き、石の裏が空洞になっていないか〔お宝が入っていないか〕、ハンマーで1個1個叩いていた(1枚目の写真、矢印)。ちっとも見つからないので、ヨシュカは、「トマーシュ、ポトシュテインは “けちんぼ” だったのかも」と声をかける。「きっと、壁には入れなかったんだ」。一方、宝物なんかどうでもいいフベルトゥは、枝に縛り付けたロープをブランコ代わりに遊び、「宝物なんか放っておいて、こっちでブランコしろよ」と誘う(2枚目の写真)。すると、枝が折れて、フベルトゥは崖下に落下。2人が壁を這い下りて助けに駆け付けると、彼は、札束の山の上にいた(3枚目の写真)〔雨が降ると分かっていて、ペットセは、紙で出来たお札を、カバーもせずに窪みにまき散らしておいたのだろうか? お札も、すべて濡れているはずだが…〕。トマーシュとヨシュカは、それから、お札を1枚ずつ数え始める。金額が3270と2500クローネまで来た時(4枚目の写真)、ヨシュカが、「もう止めた。数えるために家から逃げ出したんじゃない!」と投げ出す。それまで、帽子を顔に被せて横になっていたフベルトゥは、「束ごとに分けようぜ。ちょっとくらい違ったってかまわないじゃないか」と言い出す。ヨシュカも、「それがいいや」と言って、1枚の札を顔に乗せる。それが、1907年に発行された20クローネ札。後で総額80万クローネだと分かるので、確かに、全部数えていたらきりがない。そこで、トマーシュは、ブルーの札束を、1つずつ、3人に分け始める。次が、サイズの大きな札束〔100クローネ札?〕。ヨシュカは、お爺さんの顔の札束〔存在しない?〕。そのうち、トマーシュが、「なあ、みんな、変じゃないか? ポトシュテイン〔中世の城主〕が、今のお札を持ってたなんて」と、発見したのが “ポトシュテインの財宝” ではないことを指摘する【原作の第33章の、洞窟内での金貨の箱の発見のチェコ版】
  
  
  
  

教会の鐘が鳴り、1台の霊柩馬車がゆっくりと進んで行く。そして、墓地には 80名ほどの参列者が集まっている(1枚目の写真)。トマーシュとヨシュカとフベルトゥの3人は、札束の入った袋を背負い〔袋が3つ、どこにあったのだろう?〕、墓地の塀の外側を走っている。すると、校長の弔辞が聞こえてくる。それは、2人が “青とピンクのカードの不正取得者” であるにもかかわらず、慈愛に満ちたものだった【原作の第17章の 「牧師の説話」と似ている】。当の3人は、墓地の塀越しに中の様子を見て楽しんでいる(2枚目の写真)。全訳はしないが、「彼らは最も才能があり、最も勤勉な生徒でした」と言った時、シュテパーンが 「まさか」 といった嫌な顔をする【原作のシッドは、これほどひねくれてはいない】。校長の弔辞が、「彼らは 人生の春に私たちを去りました。永遠に」まで、来た時、校長は、塀の向こうの3人に気付き、驚いて3人を見つめる。参列している多くの生徒を含めた全員の視線が、校長の見ている方を見つめる(3枚目の写真)。最初に、塀の上に上がったのは、トマーシュ。袋を背負って飛び降りる。そして、ヨシュカ、フベルトゥと続く(4枚目の写真)。トマーシュの伯母と、ヨシュカの母は、大喜びで2人の元に駆け付ける【原作の第17章では、3人が教会での葬儀に入って行くが、ここでは、それが墓地になっている。ただ、原作では宝物の入手は第33章だが、ここでは、札束を持っての ”来場” だ】
  
  
  
  

3人は、すぐに、袋のお札を墓石の上にすべて出す(1枚目の写真)。さっそく署長が割り込んできて、「これ、どうしたんだ?」と訊く。ヨシュカが、「僕らが見つけた」と言い、トマーシュは、「10万の8倍あったよ。数えたんだ」と付け加える」。「見つけた? どこで?」(2枚目の写真)。トマーシュは、抜かりなく、「僕たちが見つけた場所を話したら、ご褒美もらえる?」と訊く(3枚目の写真)。「もちろん」。「子供でも?」。「請け合うぞ。どこだ?」。トマーシュは署長の耳元で囁く。聞くにつれて、署長の顔が 「してやったり」 に変わって行く(4枚目の写真)。因みに80万クローネだが、唯一見つけたデータは、『オーストリアの発券銀行と通過』という1976年の論文。そこには、1892年に「金1キロ=3280クローネ」と定めたと書かれている。これが、1910年前後にも有効とすれば、今日の金相場は、金1キロ≒880万円なので、80万クローネは約21億円に相当する〔謝礼が1%でも2100万円〕〔なお、トムとハックが手に入れた金貨は12000ドル。1886年の1ドルは現在の30.59ドルの購買力という数値を信じれば、12000ドルは、現在の4500万円に相当する〕【原作の第34章ではお宝の発見なので褒め称えられるが、映画では警察とのやり取りで高揚感が失われてしまう。2つの大きなエピソードを無理矢理1つにまとめ上げたところに違和感が残るのは当然なのかも】
  
  
  
  

署長は、さっそく警官隊をポトシュテイン城に送り込む。そうすると、なぜか、「1週間後にここで会おう」と、ボスから言われていたのに、その3人が、3人とも “翌日” にポトシュテイン城にいる。城の中で逃げ惑うのは、“店の主人” と “もう一人”。そして、次のシーンでは、3人目のペットセが、背中にナイフを刺されて死んでいるのが発見される(1枚目の写真、矢印はナイフ)。そのナイフを見た署長は、持ち主を知っていた。そこで、警官隊は、“もう一人” の家に先回りする。彼が、貧相な小屋に近づくと、署長が中から現れる。彼は、「殺してない」と弁解する。「誰がやった?」。「レジャッカ〔これで、ようやく店の主人の名前が分かる〕。彼は、ペットセが、こっそり戻って来て、金を盗み出したと思ったんだ。ガキどもが見つけたとは知らなかった」(2枚目の写真)〔ガキども云々は、いつ、どうやって知ったのだろう?〕。一方、そのレジャッカは、駅で汽車に乗り込んで逃走を図る(3枚目の写真、矢印)【すべて原作にはない】
  
  
  

その先は、映画の冒頭と同じシーンが繰り返される。ヴァーツラフが、ドクターのために停車することを機関手に言い忘れたことを知ったアポレナは、トマーシュを汽車に向かって走らせる。トマーシュは、汽車の前方に飛び出して両手を振って、「パトチカさん、止まって!」と叫ぶ(1枚目の写真)。「どうした?」。「止まって」。「何だ?」。「水曜日だよ」。今回は、途中で乗り込むのはドクター1人ではなく、女性が一緒〔誰?〕。列車には、レディ・ファーストで女性から乗る。彼女は、トマーシュを見て、「溺れた子ね」と言うが、これはいくら何でもひど過ぎる。「銀行強盗のお金を見つけた子ね」と言うべきだろう(2枚目の写真)。ドクターは、いつも通り、トマーシュには声すらかけない。毎回 トマーシュに 列車を止めてもらっているのに、何様だと思っているのだろう? たかが一介のドクターのくせに。お手伝いさんだけは、べっ甲飴ではなく、お駄賃を格上げし、チョコレートを渡す。その間、レジャッカは、汽車が遅れてしまうので、イライラしている。汽車は動き出すが、見送って手を振るお手伝いさんの背後から、レール上を2人の警官が走ってくる(3枚目の写真)。汽車はのろいので、警官は汽車に追いつき、列車の最後尾につかまり、次いで車内へと入って行く。観ていて非常に不満なのは、トマーシュの大手柄が、彼の境遇に何の変化も与えていないように描かれていること。原作では、①ポリー伯母さんはトムの6000ドルを年6分の利子で預け、トムには、小遣いとして、毎週平日には1ドル、日曜には0.5ドル〔週6.5ドル=現在の198ドルの購買力に相当≒25000円弱〕がもらえるようにし、②ベッキーとの愛は確定的となり、③ベッキーの父の判事は、トムに感心し、士官学校→法律大学への進学を構想し、その構想は、続編の『トム・ソーヤーの探偵』(1896)にも継承・具体化されている。こうした恩恵は、映画のトマーシュには何もない。少なくとも、本編後の映像や、事後談の文章は一切ない。
  
  
  

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